武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

『アイアムアヒーロー』エア聖地巡礼(前編)

読めば読むほど味わいのある花沢健吾氏のホラーコミック『アイアムアヒーロー』。第1巻、第2巻は練馬区の石神井や三原台が舞台だ。ところが私は練馬に住んだことがないので土地勘がまったく無く、主人公鈴木英雄が第1巻第10話からあちこち移動しているがいったいどこをどう動いているのかさっぱりわからない。そこでGoogle マップストリートビューを活用してコミックに描かれている背景を手がかりに調べてみた。言わば「エア聖地巡礼ってところですわ。
 なお、これは私が勝手に調べたもので間違いや勘違いがあったらそれは私の責任ということで。あとネタバレはなるべくしないようにしているけど、まだ読んでいない人はコミックを読んでから見て貰った方がいいだろう。

結構右往左往している石神井編

『アイアムアヒーロー』石神井周辺移動図 - 地図Z


※追記:上の地図をjpeg化してみた


まず地図上の(1)と示されている場所が主人公鈴木英雄のマンションがある場所(の周辺)。第1巻第1話で「高速道路のすぐ横」、という本人の台詞があるので関越自動車道すぐ脇にあるようだ。また、第10話冒頭で出てくる高速道路脇の風景はストリートビューで確認できる。

その後、目白通りを東へ向かい、三軒寺交差点の陸橋を南側に渡り、恋人黒川徹子のアパート(2)へ。ちなみにアパートそのものはストリートビューでそれらしい建物を見つけられなかったので、(2)の位置は適当。聖地巡礼で(2)の位置に行っても現地に黒川さんのアパートは存在していないので悪しからず。

その後、主人公は諸々の事情で(3)の銭湯の前まで走っている(第2巻第17話冒頭)。これもストリートビューで確認したが実在する銭湯だ。重さ4kgの銃と弾薬を背負ってこの距離を走るのは相当体力が必要だろう。

次に主人公は再び三軒寺交差点陸橋を渡り、そこにある交番に行こうとするが、諸般の事情で仕事場である松尾プロへ向かう。松尾プロは、当初目白通り南側にあるかと思っていたけど、描かれていた背景を調べたらどうも練馬清掃工場北側の住宅地にある。実際第1巻第2話の鈴木英雄の松尾プロへの出勤シーンは、目白通り北側を通り練馬清掃工場西側を北に向かって歩いている。(4)は第2巻第17話で主人公が通り過ぎる畑で、ストリートビューで見るとそっくりの風景が広がっている。ここで出てくるオッサンは(5)の次のページでまた出てくるんだよね。

その後、主人公は松尾プロを出て(4)の畑の脇を再び抜け、練馬清掃工場の裏に出る。ここが(5)で、ストリートビューで見るとコミックとそっくりの風景が広がっている。その後、三軒寺交差点陸橋を渡り、西武池袋線石神井公園駅へ向かう。

ということで、今回は第1巻第10話から第2巻第20話までの移動経路を探ってみた。主人公は後半松尾プロから石神井公園駅まで走り通しで、この間は結構な距離だけど、まあ状況が状況なのでそれくらい走るか、という感じですねえ。

意外だったのは鈴木英雄の自宅マンションと松尾プロがかなり近いということ。同じく黒川徹子のアパートも相当近い。もうちょっと広範囲な地域が舞台かと思っていたけど、歩きでも充分回れる距離ですね。梅雨の合間にでも現地に行ってみようかと(笑)。

ということで次は石神井公園駅からどう移動したかを調べてみたいと思っている。

『アイアムアヒーロー』&『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』


ビッグコミックスピリッツ』で花沢健吾氏が連載中のホラーコミック『アイアムアヒーロー』、昨日既刊全三巻を遂にプチ大人買い。前は職場で読んでいたのだが、毎週細切れで読んでいることにガマンできなくなり、遂に単行本に手を出した次第だ。

ゾンビが登場する作品として有名なゲームやコミックとしてバイオハザードや後述する『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッドがあるが、『アイアムアヒーロー』から滲み出る恐怖感も相当なものだ。主人公は小心者かつ妄想癖のある元漫画家鈴木英雄35歳。今や連載を打ち切られ、売れっ子エロ漫画家のアシスタントに身をやつしている。恋人がいるが、彼女の元カレはヒット作を抱える一般漫画家でそれも鈴木英雄のコンプレックスを刺激する要素となっている。そんな日常で鬱屈を抱えて毎日を生きていた主人公だが、ある日、仕事帰りに車にはねられ首が折れたのにそのまま立ち去る女性を目撃する。彼女に話すが彼女は信じない。そしてじわじわと主人公や恋人の周囲にゾンビ化する奇病が迫ってくる。そして遂に社会が崩壊する時がきた…。
とまあ、こんな感じでグイグイと不可思議な恐怖ワールドに引き込んでくれる。ちなみに第2巻の冒頭、詳しくは書かないが鈴木英雄と彼女とのストーリーはおぞましくも悲しい展開で「ああ、花沢健吾はいいハナシを描くなあ」と感じた次第だ。

なお、主人公鈴木英雄は作者花沢健吾氏ご本人がモデルなのか、本人そっくりに描かれている。アシスタント先の職場でとうとうとコミック論を語るあたりも、もしかすると作者本人の持論なのかもと思っている。また、第3巻巻末にコミック本編に登場した英語台詞の和訳対照表が付いていたが、このサービス精神がなんとも心憎い。今後の展開に目が離せない作品だ。


エロス、バイオレンス、そしてホラーと言えば『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド

こちらもゾンビがキーワードになるコミックだが、『アイアムアヒーロー』とはだいぶ方向性が違い、エロスやバイオレンスの味付けがほどよい感じで、ホラーというよりはサバイバル系のエンターテインメント作品だ。

主人公は床主市と呼ばれる日本にある架空の大都市に住む男女高校生。ストーリーは平和な学園生活が突如、ゾンビ化する奇病によって断ち切られるところから始まる。突如、教師や級友がゾンビ化し、周囲の人間に襲いかかる。社会は崩壊し、正常な人々は孤立し、ゾンビ化した人だけでなく、未感染な正常な人間同士の争いをも生き抜かなければならなくなる…

コミック原作者は佐藤大輔氏。以前より『凶鳥“フッケバイン”―ヒトラー最終指令』などゾンビが登場する仮想戦記小説などを執筆していたが、魅力的な女性を描くことで定評のある佐藤ショウジ氏と組んで書き下ろしの原作を手がけたのが『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』だ。前世紀からの佐藤大輔ファンとして、遅筆の佐藤大輔氏が原作者と言うことでちょっと不安な部分もなきにしもあらずではありますが、リンク先の表紙にあるように大変魅力的なボディを持つ女性陣の今後の運命が大変楽しみ…いや気になるわけであります。なお、第6巻は7/9発売、今から楽しみだ。
加えて『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』はアニメ化され、7月から地上波深夜帯で放送されることが決定している。願わくば『学園黙示録 ハイスクール・オブ・ザ・デッド』の成功を元に、中断している『皇国の守護者』や『レッドサンブラッククロス』の再開を希望するものでありますw。

『図説・幕末志士199』

NHK大河ドラマ龍馬伝』もいよいよあと半年、坂本龍馬が幕末の日本を所狭し駆け巡り尊皇から佐幕まで数多くの志士達に出会う展開となってきた。ただ志士達の多くはよっぽどの歴史マニア出もない限り名前を聞いてもすぐどのような人物か思い浮かぶ人は少ないだろう。そのような時に座右にあると便利なのがこの本だ。

本ムックは、文字通り幕末の志士を紹介したデータベースだ。坂本龍馬勝海舟などの著名人から、伊豆韮山の代官江川太郎左右衛門など知る人ぞ知る、という地方の逸材まで幅広く紹介している。また、面白いのが維新前夜の先覚者である高野長英渡辺崋山なども紹介していることだ。どうしても維新関連の書籍は鳥羽伏見の戦いのあたりから函館戦争までが対象、という構成のものが多いが、それ以前に維新の胎動を作り出した人間の業績にも注目しているところが歴史モノの学研ならではでないだろうか。
歴女の方々も含め歴史ファンやマニアは、ぜひ『図説・幕末戊辰西南戦争―決定版』と併せて手にとって欲しい。

ちなみに高野長英は筆者と同郷で、田舎の小学校では郷土の大偉人として色々と教わった口だ。本書では奥羽諸藩の志士の掲載が少なく寂しい限りだが、それを埋める意味でも高野長英の掲載は地元出身者としてはちょっと嬉しい。

登場人物一覧
※目次登場順。誤字脱字が合った場合は私の入力ミスですので…

松平容保
西郷頼母
秋月悌次郎
佐川官兵衛
神保内蔵助
山川 浩
梶原平馬
柴四郎・五郎
真田喜平太
酒井玄蕃
河井継之助
小林虎二郎

徳川斉昭
会沢正志斎
藤田東湖
武田耕雲斎
藤田小四郎
関鉄之介
相楽総三
天野八郎
林 忠崇
徳川慶喜
徳川家茂
徳川昭武
井伊直弼
阿部正弘
堀田正睦
安藤信正
永井尚志
岩瀬忠震
久世広周
板倉勝静
大久保一翁
勝 海舟
山岡鉄舟
高橋泥舟
小栗忠順
榎本武揚
大鳥圭介
伊庭八郎
川路聖漠
高島秋帆
江川太郎左衛門
渋沢栄一

徳川慶勝
佐久間象山
橋本左内
松平慶永
由利公正
長野主膳
間部詮勝
梅田雲浜
島田一郎
清水次郎長
黒駒勝蔵

孝明天皇
岩倉具視
明治天皇
三条実美
有栖川宮熾仁
姉小路公知
沢 宣嘉
朝彦親王
中山忠光
頼三樹三郎
近藤 勇
上方歳三
沖田総司
山南敬助
芹沢 鴨
伊東甲子太郎
永倉新八
斎藤 一
島田 魁
中島 登
相馬主計
清河八郎
佐々木只三郎
島田左近

吉田松陰
高杉晋作
木戸孝允
久坂玄瑞
毛利敬親
村田清風
大村益次郎
伊藤博文
山縣有朋
長井雅楽
周布政之助
井上 馨
吉田稔麿
広沢真臣
山田顕義
品川弥二郎
前原一誠
赤根武人
来島又兵衛
国司信濃
鳥尾小弥太
白石正一郎
月性
世良修蔵

坂本龍馬
岡慎太郎
山内容堂
後藤象二郎
武市瑞山(半平太)
吉田東洋
岡田以蔵
谷 干城
板垣退助
吉村虎太郎
岩崎弥太郎
陸奥宗光
福岡孝悌
伊達宗城
日柳燕石

平野国臣
鍋島直正
江藤新平
大隈重信
横井小楠
副島種臣
宮部鼎蔵
太田黒伴雄
河上彦斎
真木和泉
島津斉彬
島津久光
西郷隆盛
大久保利通
桐野利秋
小松帯刀
伊地知正治
西郷従道
大山 巌
大山綱良
黒田清隆
有馬新七
田中新兵衛
五代友厚
川路利良
篠原国幹
森山新蔵

天璋院
和宮
大田垣蓮月
村岡局
野村望東
村山たか
松尾多勢子
楢崎 龍
寺田屋登勢
奥村五百子
木戸松子
中西君尾
高杉雅子
おうの
中野竹子
西郷いと
大浦 慶
斎藤 吉
楠本いね

高野長英
渡辺崋山
田崎草雲
梁川星巌
雲井竜雄
福地桜痴
斎藤弥九郎
千葉周作
上野彦馬
下国蓮杖
緒方洪庵
松本良順
福沢諭吉
武田斐三郎
松浦武四郎
河鍋暁斎
月岡芳年
中浜万次郎
前島 密

ペリー
ハリス
ヒュースケン
ブチャーチン
ブリュネ
ロッシュ
パークス
アーネスト・サトウ
オールコック
グラバー
スネル兄弟
シーボルト
ベアト
ヘボン

『誰にも書けなかった戦争の現実』

本書が取り上げている内容は、連合国の兵士と国民の生活を通して描き出した第二次世界大戦のある「現実」である。戦場で暇を持て余した兵士向けに刊行されたペーパーバック、総力戦によって戦場が後方の市民生活と重なった結果、残酷な現実と向かい合うことになる普通の市民達、配給所を「ブリティッシュ・レストラン」と呼ぶ欺瞞など、米英両国の事例を中心に18章構成で書かれている。著者は実際に第二次世界大戦を体験した人間で、米国出身で欧州戦線で負傷して勲章を貰っているようだ。
本書で紹介されている事実でショッキングなのは、太平洋戦線で米兵が日本兵の頭蓋骨などを本国に送っていた、という記述だ。戦争は当事者を狂気に追い込む、と言うのは簡単だが…

ちなみにタイトルのフレーズ「キルロイここにあり」(本書では「キルロイ参上」という表現となっているが)は、私のかつての愛読書、佐藤大輔氏の小説にも使われたフレーズで、戦争中に兵士達に人気のあった遍在する謎のキャラクターのことだ。様々な地域の色々な場所や物に「Kilroy was heare.」と書くのが流行したらしい。個人名でも無く、有名キャラでもなく、キルロイという無名の人名を書く、という行為は、平時を生きる私には分かるようで分からない。キルロイという共通のキーワードを使うことで、互いに会うこともない兵士達が、戦争中という緊張を強いられる時代の中で、何か連帯感を感じていたのかも知れない。

本書は戦争中の連合国の風俗、兵士の心境、銃後の国民の生活とそれを統治する政府の政策などを多面的に知りたい人向けの書籍かと思う。


『ぼくらはみんな、ここにいる』

本書には激しい戦闘シーンがある訳でもなく、強烈な主張を持つ時間犯罪者が出てくる訳でもない。ただただ淡々と江戸時代に謎の現象で飛ばされた少年少女達が、サバイバルの工夫をしながら時代と折り合って生きていく物語。
先日文庫化されたとのことで、この週末久しぶりにハードカバー本を読み直してみた。
私は昔から漂流モノは好きな方で、小学生の頃は『十五少年漂流記』、NHK少年ドラマシリーズ『孤島の秘密』(OPの「島の支配者はオールマイティQ♪」というフレーズが大好きだったんですよね)に大ハマリだったので…
こういう漂流モノの基本は10代の少年少女が主人公であらねばならない訳で、本書もそのフォーマットを踏襲している。更に過去漂着系らしく、様々な場面で現代の知恵や道具が問題解決に役立っていく。そして青春群像劇ではお約束の対立、和解、そして恋などを散りばめながら、ラストへ向けてたんたんと収束していく…

作者の大石英司氏は、1980年代から架空戦記系小説を書き始めたベテラン小説家だ。1990年代前半の架空戦記ブームの際にもブレずに現代物のみを書き続け、代表作としては『第二次太平洋戦争』『新世紀日米大戦』『ゼウス』など多数ある。
ちなみに最近の氏の作品では、スターシステムで「サイレント・コア」メンバーが出てくることが多いが、ドンパチが無い本書では当然出てこない。さらに本作にはドンパチどころかスペクタクルシーン等は無く、いつもの大石氏の作品のノリとは明らかに雰囲気が異なり、少年ドラマシリーズ的な作風に仕上がっている。子供時代に街ごと、あるいは学校ごとタイムスリップしたらどうなるか、みたいな想像をしたことのある人間なら楽しめる小説です。また、日常の激務でちょっとすり減り気味の方にも、ちょっと少年時代気分に戻って淡い恋心を追体験する、等々ちょっと癒しの一冊になるかもしれませんな。

『水はなんにも知らないよ』

私が「水に優しい言葉をかけると綺麗な結晶が出来る」というハナシを聞いたのは2006年秋頃だったと記憶している。このような考えは、マトモに科学を勉強している人間には噴飯ものだが、恐ろしいことにこれを信じて子供に授業で教えている教師がいるのだという。あまつさえ、それをテキスト化して配布している授業の研究会まであると言う。
さらに本書によると、学会でこの主張に基づいて物理学会で発表した某旧帝大所属の研究者までいるとか…
この一件だけで我が国の研究者全般の水準が下がったとは考えたくないが、いつの間にか社会に知的衰退が忍び寄っているのかと思うと、何か薄ら寒いものを感じざるを得ない。

本書で筆者は、「水に優しい言葉をかけると綺麗な結晶が出来る」などと主張している『水は答えを知っている』の考え方の誤謬を指摘し、さらに「波動」「πウォーター」「クラスター水」などの類似の疑似科学についても、私も以前から参考にさせて貰っている安井氏や天羽氏の研究成果を引用しながら、その問題点を明らかにしている。
例えば波動測定器と称する機器が、実は単なる皮膚の電位測定器に過ぎないとか、実に詳しく怪しげなビジネスを斬っていくあたりはまさに爽快と言えよう。とにかく我々の健康に対する不安を、ニセ科学が如何に突いてくるのかが本書を読めばよく分かると言える。
ちなみに私の身内にも、どうもこの手の健康器具や食品に嵌りやすい人間がいるので、一度読ませてみようかと思っているところだ(苦笑)。

※参考
・市民のための環境学ガイド
http://www.yasuienv.net/
・冨永研究室びじたー案内(天羽優子氏がサイト製作を担当されているようだ)
http://atom11.phys.ocha.ac.jp/