武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

『誰にも書けなかった戦争の現実』

本書が取り上げている内容は、連合国の兵士と国民の生活を通して描き出した第二次世界大戦のある「現実」である。戦場で暇を持て余した兵士向けに刊行されたペーパーバック、総力戦によって戦場が後方の市民生活と重なった結果、残酷な現実と向かい合うことになる普通の市民達、配給所を「ブリティッシュ・レストラン」と呼ぶ欺瞞など、米英両国の事例を中心に18章構成で書かれている。著者は実際に第二次世界大戦を体験した人間で、米国出身で欧州戦線で負傷して勲章を貰っているようだ。
本書で紹介されている事実でショッキングなのは、太平洋戦線で米兵が日本兵の頭蓋骨などを本国に送っていた、という記述だ。戦争は当事者を狂気に追い込む、と言うのは簡単だが…

ちなみにタイトルのフレーズ「キルロイここにあり」(本書では「キルロイ参上」という表現となっているが)は、私のかつての愛読書、佐藤大輔氏の小説にも使われたフレーズで、戦争中に兵士達に人気のあった遍在する謎のキャラクターのことだ。様々な地域の色々な場所や物に「Kilroy was heare.」と書くのが流行したらしい。個人名でも無く、有名キャラでもなく、キルロイという無名の人名を書く、という行為は、平時を生きる私には分かるようで分からない。キルロイという共通のキーワードを使うことで、互いに会うこともない兵士達が、戦争中という緊張を強いられる時代の中で、何か連帯感を感じていたのかも知れない。

本書は戦争中の連合国の風俗、兵士の心境、銃後の国民の生活とそれを統治する政府の政策などを多面的に知りたい人向けの書籍かと思う。