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武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

「復興支援」と「美味しんぼ」……東京国際ブックフェア 震災復興支援シンポジウム

 

 

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先日まで東京ビッグサイトで開催されていた東京国際ブックフェア、その最終日7月5日に開催された震災復興シンポジウムを聴講する機会を得た。以下は当日取ったメモから再構成したもので、基本的には自分用備忘録という感じでのまとめのつもりだ。

なお、当日シンポジウムの録音・録画等は禁止されていたので、メモ時の聞き間違いや勘違い、抜け(途中メモが追いつかなかったので抜けが多々あります)についてその責任は全て私と言うことになります。

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震災復興シンポジウムとは、小学館が2012年に刊行した震災復興支援マンガ『ヒーローズ・カムバック (ビッグ コミックス)』がどのような経緯で刊行されるに至ったかなどを、本書に参加したマンガ家によるトークセッション等を通じて公開する、というもの。「ギャラリーフェイク」や「伝染るんです」のファンであり、本書は懐かしさもあり購入していたが、その裏話も期待しつつ聴講した次第。本エントリ前段はシンポジウムでの登壇者発言要旨、後段は聴講して感じたことや例の「美味しんぼ」問題について感じたことを簡単にまとめています。

 

登壇者発言要旨●①細野不二彦さんの冒頭挨拶

石巻の視察した際、「何故ボクはここにいるんだろう」と感じ、ここにいる意味はなにかを考えてしまった。被災した東北のためのマンガを描かないと、と思って悶々としていたが、あるとき他のマンガ家さんがやっていたチャリティコミックと出会った。それをヒントにマンガ家の各雑誌の連載ワクを使い、そこで新作読み切りを描くアイデアが浮かんだ(2011年の暮れも押し詰まったころ)。

早速、高橋留美子椎名高志両氏に根回しの上、小学館に提案した。当初は連載しつつ1年かけて単行本としてのチャリティコミックを作ろうと思った。小学館だけでなく、他の出版社にも声を掛け、何人かにOKを貰った。

(自分は)震災をテーマに読み切りを描いたが、その際、『歴史遺産を未来へ』(平川新著)や現地でボランティアをした編集者の体験を参考にした。

本書は作家が何がしかの貢献をすることができるひとつのモデルになったと思っている。また、(冒頭の自分自身からの問いに対して)何とか答えを出すことができたと思っている。

 

登壇者発言要旨●②トークセッション

細野さんの挨拶に続いてトークセッションが行われた。

出席者:藤田和日郎氏、吉田戦車氏、細野不二彦氏、小学館大島氏(パネリスト着席順)および司会者 ※以下、発言者名敬称略

 

ヒーローズ・カムバック』表紙のとらは小さすぎる、かわうそとカッパくんは大きすぎる等、表紙について司会者からネタふりがあった。トークセッション開始早々、会場の雰囲気はいっそう和んだ感じに。

 

○藤田

ヒーローズ・カムバック』について、細野さんから初期に声をかけられた。当時、震災発生で落ち込んでいた。何かやらなければ、でも何ができるんだろう…と悩んでいた。この話をもらって助かった。気持ちのカオス状態に出口をもらった。

 

○吉田

自分の作風はギャグ漫画であり、震災をギャグで表現できるか悩んだ。そこで震災そのものではない内容にした。

 

○藤田

雑誌にある自分の連載ワクを使うという点と、旧作を再利用するという点は助かった。掲載枠のない状態での新規書き下ろしはなかなか難しい。また、一度描いたことのあるキャラやストーリーであればマンガ家は描きやすい。さすがに細野さんはマンガ家の生理をよくわかっている。また、編集部もヒット作の再利用ならイヤな顔をしない(笑)。

 

○吉田

東電や政府への思いがあり、シイタケとセシウムネタで描きたかったが、歯にものがはさまった感じになってしまった。なお、『ヒーローズ・カムバック』について「うる星☆やつら」と「機動警察パトレイバー」が入っていればバイ売れたハズでは(笑)。

 

○細野

高橋留美子さんに打診した際に「うる星☆やつら」は自分の中で完結した存在なのでもう書かないと言われた。ゆうきさんに打診したけど『実はパトレイバーは権利がフクザツで…』と言われてダメだった。

 

これについてパネリストの補足情報を総合すると、当時スタートし始めたパトレイバー実写版の件が背景にあり、ゆうきさんがパトレイバー実写版制作開始を知らないとツイートした件と繋がるらしいとの話になっていた。なお、ゆうきさんは原稿が遅いがたまたま連載切り換えタイミングなのでよかったという話も。次に『3.11を忘れないためにヒーローズ・カムバック』を振り返って見て、との問いに対しての各氏から。

 

○藤田

今回、『ヒーローズ・カムバック』のプロジェクトの旗ふりを他人にまかせたのは反省している。

 

○吉田

寺田克也さんなどと一緒に被災地に行き、避難所を訪問して子供達と一緒に絵を絵を描くプロジェクトをやっている。岩手出身であり今後も継続して支援になるようなことを続けたい。

 

○細野

ヒーローズ・カムバック』以外では、避難所へ本を送るプロジェクトを手がけた。これは自宅に大量にあった献本を使った。

 

○大島

ヒーローズ・カムバック』で昔のキャラを描くことはどうだったのか?

 

○藤田

島本和彦さんは昔のキャラは連載が終わったら作家の中にはもういないと言っていた(つまり描けなくなると言う意味)。そういう意味でそれに対するチャレンジだった。島本さんが本書で「サイボーグ009」で他人のキャラ描いているのはずるいと思った。

細野さんより、こちらから島本さんにヒーローズ・カムバック』ではサイボーグ009」を描いたらと打診した、との発言あり。

 

○吉田

かっぱくんやかわうそは大丈夫だったが、サイトーさんはもう動かなかった。

(司会者からマンガに出てくるキャラが次々絶滅危惧種になっているとの問いに)全部カッパだと思えばイイと思ってます。

 

○大島

がわぐちかいじ氏から「マンガ家がマンガを描ける話を持ってきてくれてたりがとう」と言われた

(細野氏に対して)「グーグンガンモ」はまだ(細野さんの中に)いるのか?

 

○細野

まだ描ける(笑)。さらにドッキリドクターも描ける。

 

○藤田

本件の依頼で細野さんが仕事場にお願いに来たのか感動した。

 

○細野

実は最初、高橋留美子さんには電話だけ依頼したが、さすがに後で「これはまずい」と思って菓子折持って挨拶に行った(笑)。

 

最後に司会者から今後はどう活動するのかとの問いに対して。

 

○藤田

(支援は)継続しないといけない。とにかく自分の無力を自覚した。

今後も描きつづけなぃといけないと思っている。

 

○吉田

東北に縁が深く、被災した人の気持ちは忘れないようにしたい。

 

〇細野

今後は未定。ただ、震災をきっかけに日本人が変わったと思っているので描き続けたい。

 

●感想

東日本大震災発生時、マンガ家だけでなく多くのクリエイターが被災地を遠く離れた場所で自分は何しているのか、今後何が出来るのかなど悩んだと聞く。それに対する一つの答えとして本書は有意義だったということは興味深かった。表現者が表現したくても方向性を見失っていた時に、このような企画を生み出した細野さんは素晴らしいと感じた。

また、震災復興支援というテーマでありつつも、震災そのものを対象にしていないマンガが掲載されていた件について、今回疑問が氷解したのは個人的には大きな収穫だった。

なお、小学館ビックコミックスピリッツと言えば先だっての「美味しんぼ」問題が記憶に新しい。今回のトークセッションではその件は触れられなかったし、シンポジウム自体に聴講者からの質問コーナーがなかった。つまり今回のシンポジウムでは「美味しんぼ」について一切言及がなかった。

小学館やスピリッツ編集部には社会派的な意味で「問題意識」があるのだろうと私は思っている。娯楽媒体であってもそのような意識は重要な要素だと思う。むろん商業的な部分との折り合いの元で、という前提だろうけど。

それが良く出たのがこの『ヒーローズ・カムバック』プロジェクトなのではないかと思う。ただ、時折、実証的な認識や客観的な検証で弱い部分があるなと感じることもあり、今回「問題意識」だけが先行した結果が「美味しんぼ」問題だったのでは…と感じた次第だ。

 

以下、余談

細野さんのお顔を数十年ぶりに拝見した(大昔のアニメ誌で見た記憶があるが、生でのは今回初めて)けど、企業の総務部に居そうな謹厳実直そうな老境にさしかかったサラリーマン的な風貌で、私が中学生だった「さすがの猿飛」の頃から長期間バリバリ一線で活躍していることを思えば、もはやそのような年齢となるのも当然かとも感じた。とまれ風貌からは『電波の城』のような、人の心の内面をえぐり出す激しい作風を生み出すように一見見えないギャップが私の中ではとても面白かった。