武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

『乙嫁語り』姉さん女房は大手小町の夢を見るか

今、姉さん女房が熱い!
といってもアヤシイ話ではなく森薫氏が19世紀中央アジアを舞台に描く乙嫁語り』第1巻、そして最新刊の2巻がメチャクチャ面白いのだ。
森薫氏と言えば英国での恋物語を描いた『エマ』が有名だけど、まさか今度は中央アジアの若嫁を主人公にした話を書くとは誰も予想していなかったハズだ。

で、中央アジアといっても広い。モンゴルの西、カザフやキルギスなどいわゆる「大草原」が広がるステップ地帯からカラクム砂漠、そしてカスピ海を越え、遥か黒海東岸あたりまでが広大な中央アジアだけど、この物語はコーカサス山脈周辺の黒海東岸の内陸の山岳から平野部が舞台となっているようだ。「ようだ」と書いたのは、作者の森薫氏は本編中で具体的な地名を出していないため、あくまでも想像で語るしかないからだ。

この物語の主人公は20歳の女性「アミル」。上のリンク先コミックの表紙にもあるように目が大きく魅力的な女性だ。その彼女が8歳年下の婿「カルルク」の元に姉さん女房として嫁いだところから物語は始まる。アミルは遊牧民の娘で弓が得意、日本人であればちょっとおかず一品の買い物に行くノリで、気軽にウサギや鳥を射る描写がたびたび出てくる。感想としてこんな嫁さんなら欲しい、の一語に尽きます。作者の森薫さんもアミルを魅力的にするためいろいろ詰め込んだ、とも語っているし…

以下、かんたんにあらすじというかレビュー。ネタバレにはそれほどなっていないハズ。

第1巻ではアミルとカルルクの属するエイホン家の人々の紹介がメイン。当時は寿命が短かったせいか、姑(義母、義祖母、義曾祖母)、小姑ともう賑やかなことこの上ない。まあ、エイホン家の人たちはいい感じだけど、他の家とかも含めれば当時、この地に「大手小町」があったらさぞ大変だったろうと気を揉んでしまうわけだ。「孫娘が鷹の刺繍にしか興味なくて困ります」「母が言う嫁心とはなんでしょうか」「嫁入り道具に弓矢は必要?」「嫁に出した娘を(略)」などなどいろいろなテーマで盛り上がりそうだ(妄想)。
そして第2巻では実家との諍い、布支度(ぬのじたく)など異郷の風習が描かれている。この「布支度」という単語はググっても、このマンガに関連するものしか見つけられなかった。実際のものは別の名前で呼ばれているのだろう。

ちなみに作者の森さんは相当このコミックに思い入れがあるのか、アンケートはがきにまでイラストを書き込む凝りようだ。

ハガキのイラスト、右のハガキが主人公アミルと夫のカルルク、左のハガキがアミルの初めての友人かつツンデレ女子 パリヤが描かれている。

日本の歴史コミックには古くは横山光輝三国志に始まり、最近では『ヴィンランドサガ』ヒストリエなど多くの作品があるが、この乙嫁語り』も傑作歴史コミックに仲間入りするのは間違いない。
しかし『テルマエ・ロマエ』などエンターブレインは最近歴史系のコミックで面白いのが増えているような気がするのは私だけ?