武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

『三千年の海戦史』

先日、会社の同僚と飲んでいて、日本は海洋国家か否か、ということが話題になった。私は海洋国家であると思っているのだが、同僚は違うと言い、なかなか認識が一致しない。つまるところ資源の多くを海外からの輸入に頼っている日本は基本的に海洋国家だが、どうも国民的な認識として海洋国家という概念が希薄なのではないか、ということなのだろう。
本書ではそんな日本の状況も明快に規定していて、日本は明治の開国までは基本的に大陸国家的な概念しかなく、海洋国家的な概念を理解していなかった、としている。海洋国家的な政戦の概念を理解していれば、白村江の戦いで敗北することもなく、文禄慶長の役で李提督の水軍に破れることもなく、明朝末期の鄭成功の戦いを援助したであろうと説く。さらに著者松村氏は江戸期の鎖国政策が日本に海洋国家的な概念を得る機会を遅らせた、とも考えている。非常に興味深い日本論ではないだろうか。
と、日本のことだけを書き連ねたが、本書はタイトル通り、人類史において紀元前から現代までの三千年間に発生した主要な海戦を取り上げた書籍だ。ただし、戦術的な記述は少なく、基本的には戦略的な立場に立って、その戦闘の意味を俯瞰的に分析しているところが面白い。そして書名こそ『三千年の海戦史』だが、基本的には「三千年の海洋国家と大陸国家の対立史」を記述した書籍なのだ。政治史や外交史に関心のある人は一度本書を読んでみてはいかがだろうか。