武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

街場の中国論作者: 内田樹出版社/メーカー: ミシマ社発売日: 2007/06/02メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 43回この商品を含むブログ (48件) を見る

西の巨大な隣国、中華人民共和国一国二制度や社会主義国なのに資本主義、そして核兵器で武装した安保理の常任理事国、という全貌を捉えることが難しい大国だ。先年の反日暴動や来年の北京オリンピック等、我々の耳目を集めるネタにも事欠かない。
最近はその反日デモ以降の嫌中傾向を反映してか、反中国論が書店の棚を賑わすことも多い。本書はそれら反感を煽るだけの中国論ではなく、もっと「常識的な視点」で読み解くべきと説く。
著者はそれを踏まえた上で、中国について10章を設け、各章で設定したテーマで書き進めていく。

第一講 チャイナ・リスク
第二講 中国の「脱亜入欧
第三講 中華思想
第四講 もしもアヘン戦争がなかったなら
第五講 文化大革命
第六講 東西の文化交流
第七講 中国の環境問題
第八講 台湾
第九講 中国の愛国教育
第十講 留日学生に見る愛国ナショナリズム

著者の立場は基本的に「東アジア共同体」指向で穏健な統合を目指す、というもののようだ。「東アジア共同体」そのものは対中警戒感が強い私の立場とは相容れないが、それでも丁寧な論考は大変参考になる。特に中国政府の立場に立った反日や台湾問題への考察は、ぜひ一読して欲しいと思う。また本書はいわゆる嫌中派が言うところの「媚中」的な内容でもないので、本書を読んでから改めて対中強硬論系の書籍を読む、というのも事態の複眼的な理解に役立つのではないだろうか。
なお、本書は元来が大学の講義を元にしているため、この分野に知識のない人間が読んでも置いてきぼりを食うこともない。