武蔵野読書生活

神保町と古書店、そしてうまいカレーが好きな本好きのブログ

歴史群像・太平洋戦史シリーズ 戦艦大和

大和・前方より第二主砲を望む

学研の「歴史群像」の一連の第二次世界大戦ムックシリーズは、1994年の『奇襲・ハワイ作戦』から本書で50タイトル目ということだ。いや、この手のムックは各出版社から数多く刊行されているが、一定のレベルに達しているものはこのシリーズが第一に上げられるだろう。他社のシリーズでは意外なところに考証が古かったりミスがあることがあり、最新の考証に基づいた解釈を知りたいのであれば、このシリーズがお勧めだ。
ただ、このシリーズでも過去のタイトルの一部に十分検証されたとは言い難い仮説レベルのもの(大和の喫水線以下が緑色に塗装されていた、とか一部の日本の試作航空機関係の記述)、あるいは独自理論での論旨展開(対米漸減邀撃七段作戦系の記述)などもあるので、できるだけ多くの書籍(一次資料がベストだが、やはりこのジャンルではなかなか難しい…)に当たった上で解釈されることをお勧めしたい。

本書は2005年5月初刷りなので、その後2006年に発見された天一号作戦出港直前の米軍による航空写真など、その後発見された様々な史料に基づく考察は収録されていない。ただ、それを踏まえた上で、入手しやすい価格で、かつCGという再現手法で大和の全貌に迫るムックということでは、十分及第点を与えられるだろう。
艦尾平坦部の有無についての考察、艦尾甲板の夜間通行帯の分析、煙突側面形状の考察などは模型工作者にも大いに役立つことだろう。また、多数収録されたCGが戦艦という戦闘システムが、多くの兵員によって運営されたことを改めて教えてくれる。

ちなみに写真は以前尾道にあった戦艦大和の撮影用セットだ。友人と東京から夜行寝台「サンライズ出雲」と普通列車を乗り継いで呉と尾道に行った際に撮影したものだ。この尾道の大和は艦の一部だけを再現したものだったのだが、それでもなお十分な迫力で存在していた。都市伝説らしいが、某国の偵察衛星が尾道で戦艦大和のセット建造中の写真を撮影、実際に戦艦建造中と勘違いして日本の防衛当局に問い合わせてきた、という噂話も一概に嘘とは云えないのではないか…
現代では大和よりも破壊力の大きな戦闘艦はいくらでもあり、またこのセットは部分的な再現に過ぎないとは云え、やはり戦艦という喪われた艦種が持つ凶暴さ、そして時代に取り残された哀しさを十分に再現していたと思う。尾道の大和は解体されてしまったが、機会があれば呉の大和ミュージアムで、大和とはどのような艦だったのかを多少なりとも知って頂ければ幸いである。

おのなび <戦艦大和実物大セットに関する情報>
http://www.ononavi.jp/fan/yamato/

大和ミュージアム
http://yamato.kure-city.jp/

尾道、呉で撮影した大和の写真
http://picasaweb.google.co.jp/sf324929/pOpwUE